
※本記事では、矯正歯科において一般的に考えられている知見や臨床上の考え方をもとに解説しています。
実際に適応となる治療方法、治療期間、治療による変化の程度などは、患者さま一人ひとりの歯並び、噛み合わせ、骨格、年齢、口腔内の状態によって異なります。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の治療効果や顔貌の変化を保証するものではありません。治療を検討する際は、必ず歯科医師による診断を受けてください。
上顎前突とは?出っ歯との違い
「上顎前突」と「出っ歯」は、同じ状態を指す言葉として使われることが多いですが、厳密には意味が異なります。
上顎前突とは、矯正歯科における専門的な診断名で、上下の前歯の水平的なズレ(オーバージェット)が大きい不正咬合を指します。
一方、出っ歯は一般的な呼び方で、上の前歯が前に出て見える状態を表現する言葉です。
診断上は、歯の位置だけでなく、上顎や下顎の骨格バランスも含めて評価されます。

上顎前突とは|原因・症状・治療の考え方を専門的に解説
上顎前突(出っ歯)の特徴や主な原因、症状について解説します。あわせて、矯正治療による改善の考え方や治療方針について、専門的な視点からわかりやすくまとめた記事です。
上顎前突の横顔に見られやすい特徴
口元の突出感
上顎前突の代表的な特徴の一つが、横顔で見たときの口元の突出感です。
上唇が前方に位置することで、口元が前に出て見えることがあります。
この影響で、鼻の下が長く見えたり、顔全体のバランスに違和感を覚えたりする方もいます。
口が閉じにくい印象
前歯が前方にあることで、安静時に自然に口を閉じにくく、無意識に口が開いてしまうケースもあります。
無理に口を閉じようとすると、顎先に力が入り、緊張した表情に見えることもあります。
骨格性と歯性の上顎前突の違い
骨格性上顎前突
骨格性上顎前突は、上顎の骨が前方に位置している、あるいは下顎が後方に位置していることが主な原因です。
遺伝的要因が関係することも多く、歯の移動だけでは対応が難しい場合があります。
症例によっては、外科的治療を含めた検討が必要になることもあります。
歯性上顎前突
歯性上顎前突は、骨格に大きな問題はなく、歯の生え方や傾きが原因で前歯が前方に見える状態です。
この場合、矯正治療によって歯の位置を調整することで、口元の印象が変化する可能性があります。
上顎前突と年齢(成長期・成人)での治療の考え方

上顎前突の治療を考える際には、「年齢」によって治療の考え方が異なる点を理解しておくことが重要です。成長期と成人では、顎の成長状況や歯の動かし方に違いがあるため、同じ上顎前突であっても治療方針は一律ではありません。
成長期(小児・思春期)の場合、顎の成長途中にあるため、上顎や下顎の成長バランスに配慮しながら治療計画を立てることが可能です。歯の移動だけでなく、顎の成長誘導や口呼吸・舌の癖などの改善を含めた対応が検討されることがあります。この時期に適切な管理が行われることで、将来的な骨格的ズレの進行を抑えられる可能性もあります。
一方、成人の場合は顎の成長がすでに完了しているため、治療の中心は歯の移動と噛み合わせの調整になります。歯性の上顎前突であれば、矯正治療によって口元の印象が変化する可能性がありますが、骨格的な要因が強い場合には、歯の移動だけで大きな変化を得ることが難しいケースもあります。
そのため成人の上顎前突治療では、「どこまで歯の移動で対応できるか」「顔貌の変化がどの程度現実的か」を事前に整理し、無理のない治療ゴールを設定することが重要になります。
横顔とEラインの考え方
横顔のバランスを考える際に用いられる指標の一つが、**Eライン(エステティックライン)**です。
Eラインは、鼻先と顎先を結んだ線で、唇の位置関係を評価する目安として使われます。
ただし、Eラインはあくまで参考指標であり、
- 鼻の高さ
- 顎の形
- 顔全体の骨格
によって「理想」とされる位置は異なります。
Eラインのみで横顔の良し悪しを判断することは推奨されていません。
上顎前突が横顔や顔の印象に与える影響

上顎前突では、口元の突出により横顔の印象が変わることがあります。
また、笑ったときに歯ぐきが見えやすい「ガミースマイル」を伴うケースもあります。
ただし、これらの特徴はすべての上顎前突に当てはまるものではなく、個人差があります。
上顎前突を放置した場合に考えられる影響
上顎前突を放置すると、見た目だけでなく機能面に影響が出る可能性があります。
- 口呼吸になりやすい
- 前歯で噛み切りにくい
- 奥歯への負担が増える
- 発音が不明瞭になることがある
これらは必ず起こるわけではありませんが、長期的な口腔環境を考えるうえで注意が必要です。
上顎前突治療後に後戻りしやすい理由と管理の考え方
上顎前突の矯正治療では、治療後の「後戻り」に注意が必要です。後戻りとは、動かした歯が元の位置に戻ろうとする現象で、矯正治療全般に共通するリスクです。
上顎前突では、治療前に前歯が前方に傾いている状態が長期間続いていることが多く、歯や周囲組織が新しい位置に安定するまでに時間がかかる場合があります。そのため、治療後の保定装置の使用が不十分だと、歯が再び前方へ移動しやすくなります。
また、口呼吸や舌の癖、唇の使い方など、上顎前突の背景にある習慣が改善されない場合も、後戻りの要因となります。歯並びが整っても、日常的に前歯へ力が加わり続けると、噛み合わせが再び乱れる可能性があります。
上顎前突の矯正は「歯を並べて終わり」ではなく、治療後の安定まで含めて一連の治療であると考えることが重要です。保定期間の管理や生活習慣への配慮が、長期的な結果の安定につながります。
上顎前突の矯正治療と顔貌変化の考え方
矯正治療によって歯の位置や噛み合わせが変わると、結果として口元や横顔の印象に変化がみられることがあります。
ただし、
- 骨格の影響が強い場合
- 歯の移動量に限界がある場合
では、変化が限定的になることもあります。
「顔を変えること」を目的にするのではなく、噛み合わせと機能の改善を第一に考えることが重要です。
マウスピース矯正とワイヤー矯正での違い

上顎前突の矯正治療では、マウスピース矯正とワイヤー矯正のどちらが選択されるかによって、歯の動かし方や治療設計の考え方が異なります。その結果、口元や横顔の印象の変化の現れ方にも違いが生じることがあります。
マウスピース矯正は、透明な装置を用いて段階的に歯を動かす治療方法で、軽度から中等度の上顎前突に適応されることがあります。前歯の傾きや位置を細かく調整しやすい一方で、歯の移動量やコントロールには限界がある場合もあります。顔貌の変化としては、口元の緊張が和らいだり、唇が閉じやすくなったと感じたりするケースがありますが、骨格的な改善を目的とした大きな変化は期待しにくいこともあります。
一方、ワイヤー矯正は歯の移動量やコントロールの自由度が高く、上顎前突の程度が大きい場合にも対応しやすい治療方法です。抜歯を伴う治療計画が検討されることもあり、その場合は前歯の後退量が増えるため、口元の印象や横顔の見え方に変化が現れる可能性があります。
ただし、どの治療方法を選択する場合でも、「顔をどう変えたいか」だけで方法を決めるのではなく、噛み合わせの安定性や歯列全体のバランスを優先して判断することが重要です。
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よくある質問(Q&A)
- 上顎前突は必ず矯正しなければいけませんか?
A. 必ずしも治療が必要というわけではありません。ただし、噛み合わせや機能面に問題がある場合は、治療を検討することがあります。 - 矯正で横顔は必ずきれいになりますか?
A. 横顔の印象が変化する可能性はありますが、その程度には個人差があり、変化を保証するものではありません。 - 大人になってからでも治療は可能ですか?
A. 成人後でも矯正治療は可能です。骨格や歯並びの状態に応じて治療方法が検討されます。 - 上顎前突は自然に治ることはありますか?
- 成長期の一部のケースでは、顎の成長とともに状態が変化することがありますが、自然に改善するとは限りません。多くの場合、歯並びや噛み合わせの管理が必要になります。
- 横顔をきれいにしたい場合、必ず抜歯が必要ですか?
- 必ずしも抜歯が必要になるわけではありません。歯並びや噛み合わせ、骨格の状態によって判断されます。抜歯を行わずに治療できるケースもあります。
まとめ|上顎前突の横顔は総合的に判断することが大切
上顎前突は、歯の位置や骨格の影響によって、横顔や口元の印象に特徴が現れる不正咬合です。
矯正治療によって印象が変化する可能性はありますが、その現れ方や程度には個人差があります。
見た目だけに注目するのではなく、
- 噛み合わせ
- 機能面
- 長期的な安定性
を含めて歯科医師と相談しながら判断することが、後悔の少ない選択につながります。
著者情報
ニッコリ矯正歯科クリニック 院長 小林 弘史

略歴
2002年03月 駿台甲府高等学校 卒業
2008年03月 東京歯科大学歯学部 卒業
2008年04月 同大学 臨床研修歯科医師
2009年03月 同大学 臨床研修歯科医師 修了
2009年04月 同大学 歯科矯正学講座 Post Graduate Course 入局
2010年04月 同大学 大学院 入学(歯科矯正学講座)
2012年03月 同大学 歯科矯正学講座 Post Graduate Course 修了
2014年03月 同大学 大学院 卒業(歯科矯正学講座)
赤坂まつの矯正歯科にて舌側矯正を研鑽
東京歯科大学 矯正歯科学講座 勤務
2016年04月 同大学 矯正歯科学講座 臨床講師
2018年05月 ニッコリ矯正歯科クリニック 開院